インプラント学会第9回学術シンポジウ...
2018.07.22
本日、日本口腔インプラント学会関東・甲信越支部第9回学術シンポジウム
メインテーマ「集学的治療としてのインプラントを考える・若手インプラントロジストの取り組み」が日本歯科大学生命歯学部富士見ホールにて行われ、出席してまいりました。
〈内容〉
「再生医療と今後の展望」
山本麻衣子先生
東京医科歯科大学 インプラント外来
今やインプラント治療の信頼性の向上に伴いインプラントの需要が増加しました。
従来では大学病院で行っていたようなインプラント治療が困難であった骨量の少ない部位や上顎洞挙上術などでも、今や限定的ではありますが、一般歯科医院で行われるようになりました。
それにより確実性の高い治療が求められてきており、骨移植や人工骨を用いた骨造成に加えて再生医療もやっと歯科領域で行われるようになってきました。
骨造成に使用するものとして様々な代用となる人工骨が開発製品化されていますが、まだ自家骨がゴールドスタンダードとなって広く使用されております。
再生医療の方法論として、組織工学と細胞移植の2つの方法に大きく分けられますが、その組織工学的な方法としての人工骨は多く開発されて多種多様となっておりますが、細胞移植などの方法は現状では組み込まれておりません。
今回は骨再生医療、骨組織工学としての骨補填材料の問題点と再生医療の細胞移植を含めた研究や動向そして規制などの紹介と今後の再生医療の展望についての考察についてです。
「インプラント治療における血小板濃縮材料の応用」
礒邉和重先生
東京形成歯科研究会
今やインプラント治療において骨造成は避けて通れない状況となっており、それに伴ってインプラント窩治癒促進と成功率をあげるためには、再生医療は欠かせない状況となっております。
1998年に多血小板血漿のPRPが顎顔面領域の骨再生において有効であることが証明され、その後PRGFやPRFがPRPから派生した血小板濃縮材料として開発されました。
完全自己血由来のPRFの開発により臨床応用するユーザーが増えて世界的な広がりを見せています。
この血小板濃縮材料は高濃度の増殖因子によって組織の細胞が増殖し分化して、組織再生が行われます。
さらに組織再生には幹細胞を含む組織細胞の増殖と分化とともに、血小板濃縮材料は血管新生に効果的に働き間接的に抗炎症作用・抗菌作用。疼痛抑制作用が組織再生に対して重要な役割を果たしているとされています。
この血小板濃縮材料をインプラント治療で臨床応用した症例報告でした。
「上顎洞挙上術の背景と術後評価」
小川秀仁先生
みなとみらいインプラントアカデミー
かつて上顎臼歯部の骨量がないケースでは、インプラント治療は禁忌でありました。
その後、腸骨移植による上顎洞挙上術が大学病院レベルで行われるようになり一般歯科医院では、上顎洞挙上術は日常の臨床では行われることはありませんでした。
しかし現在では、骨補填材の進化とソケットリフトの登場や補填材を使用した上顎洞挙上術の術式の確立によって、一部の歯科医院でも日常的に上顎洞挙上術を臨床応用するようになっております。
また、一般歯科医院での歯科用CTの普及に伴い従来のパノラマレントゲンのみの診断とは次元の違う正確な診断が可能となりました。
術者は、上顎洞挙上術における補填材は自家骨がゴールドスタンダードではあるが、自家骨のみの採取はやはり腸骨や腓骨からの採取となり患者の外科的侵襲が大きいため、下顎枝やオトガイ下からの骨採取に吸収性の骨補填材であるβ-TCPを混入して上顎洞挙上術を行った症例を紹介しました。
自家骨のみの上顎洞挙上術と異なり、一般歯科医院で可能な比較的低侵襲で予知性のある術式と説明しておりました。
「顎骨再建、広範囲顎骨支持型装置治療の若手インプラントロジストの取り組み」
寺本裕二先生
愛知インプラントセンター
口腔顎顔面領域における腫瘍や外傷そして先天異常により顎骨欠損を生じた場合、機能的な再建が必要でインプラント治療が多く臨床応用されるようになりました。
腫瘍などにより顎骨そのものを切除した場合の顎骨再建とその再建された骨にインプラント埋入を行い、機能回復した症例の発表でした。
一般歯科医院のインプラント治療では行えない口腔外科的なインプラント治療でありましたが、ここまで顎骨の再建とインプラント治療が進歩しているのには目を見張ります。
「咬合再建を考慮した理想的な骨造成のための外科的挑戦」
広範囲顎骨欠損への骨髄海綿骨細片移植を中心に
土肥雅彦先生
日本インプラント臨床研究会
上記同様、腫瘍などにより広範囲にわたり顎骨を欠損して症例です。
以前では顎骨再建においての腸骨移植は、採取した移植骨を術中の限られた時間の中で顎骨形態にトリミングしなければならず、理想的な顎骨形態を移植するのは困難でありました。
コンビームCTの進歩により、術前にDICOMデータより作成した3-Dレジンモデルを用いて理想的な形態の違いチタンメッシュトレーや歯槽堤形成術に用いるソフトシーネの作製が可能となりました。
術中にチタンメッシュトレーの成型を行うのに比べて各段に手術時間の短縮と極めて理想的な形態の顎骨再建を行うことにより、審美的な顔貌の回復・インプラント埋入・咬合回復が可能となりました。
「矯正治療を伴うインプラントの治療計画と考察」
川原淳先生
横浜口腔インプラント研究会
成人の矯正治療において、欠損歯・進行した歯周病・放置した欠損による病的歯列不正により、矯正治療はより複雑となり対処が困難となります。
また、小児における矯正治療の固定源となる第一大臼歯の欠損した成人の症例ではインプラントを固定源とした矯正治療が可能となりました。
インプラントを応用した矯正治療の診査・診断・治療計画・術後についての発表でした。
「デンタルソリューションによるインプラント治療」
ガイド作成から上部構造まで
小野里元気先生
新潟再生歯学研究会
近年の歯科治療のデジタル技術の発展に伴い著しくインプラント治療は向上しました。
歯科用CTにおけるインプラントシュミレーションそしてサージカルガイドの製作・アバットメントの製作・インプラント上部構造の製作はCAD/CAMは当たり前となりました。
とくにコンビームCTにおけるサージカルガイド製作では、インプラントシュミレーションしたデータと口腔内スキャナーのデータをマッチングさせて、従来よりより精度の高いサージカルガイドの製作が可能となり、より安全にまた理想的な角度・深度のインプラント埋入が行えるようになりました。
口腔内スキャナーを使用することにより、一連の治療を印象なしで行い患者への不快感と負担を極力なくす治療などの発表でした。
「インプラント治療のマネージメント」
瀬戸宗嗣先生
日本歯科大学新潟病院口腔インプラント科助教授
近年の歯科界におけるデジタル技術の進歩は目覚ましくインプラント治療に多く導入されてきています。
コンビームCTの登場により以前では行えなかった術前のシュミレーションはもとより、理想的な位置で埋入が可能となったサージカルガイドの製作、CAD/CAMにおけるアバットメントや上部構造の製作そして最近では光学印象が臨床応用されて、患者の不快感を伴うシリコン印象に変わるものとなりつつあります。
しかし、術者がそれを扱う能力が伴わなければ重大なトラブルが発生します。
外科的手術においていくら精度の高いサージカルガイドを使用したとしても、基本的な切開・剥離・ドリル操作が行えなければ失敗につながります。
インプラント治療がデジタル化され進歩しても、それを使用するのは結局アナログである術者に他なりません。
「インプラント上部構造としてのセラミック修復の予知性を探る」
積田光由先生
鶴見大学歯学部クラウンブリッジ補綴学講座助教授
鶴見大学歯学部付属病院インプラントセンター
現在インプラント上部構造においては、CAD/CAMをベースとした補綴治療は当たり前のこととなっています。
特にジルコニアの歯科補綴の応用により、メタルフリー修復が可能となりました。
ジルコニアは審美的にも強度も優れており理想的な歯間修復材料と思われがちですが、インプラントを長期に安定して機能させるためには多くのファクターが存在し、上部構造のセラミックについての予知性についての講義でした。
「インプラント周囲炎の予防」
清掃性の高い補綴形態
藤井政樹先生
昭和大学インプラント歯科学講座助教授
インプラント治療が良好なインプラント埋入と上部構造が装着されても、長期安定性を確保するのはインプラント周囲炎を起こさないことです。
それは本人の日々の清掃はもちろんのこと、歯科医院での定期健診を怠らないこと、そして喫煙による血流欠乏により抵抗力低下や糖尿病などによる全身的な抵抗力の低下が起因してきます。
どんなに表面性状の良いインプラント体を埋入しても天然歯牙に勝るものはありません。
インプラント周囲炎の治療法はまだまだ確立されておらず、今後の更なる課題となるでしょう。
「インプラント周囲疾患の治療と予防について」
佐野哲也先生
総合インプラント研究センター
インプラント周囲炎は、インプラントロジストにおいて必ず経験する、もはや避けて通れない疾患です。
インプラントビギナーにとっては、インプラント埋入するための外科術式ばかり注目し勉強しがちですが、患者はインプラントを入れることが目的ではなく上部構造を装着して良く噛め、長持ちすることを願って受診するわけです。
もちろんインプラント埋入手術が、最もインプラントの長期安定性において重要な要素であることには疑いの余地はありません。
しかし、埋入後何十年という安定した咬合を維持するには、セルフケアとプロフェッショナルケアによるメインテナンスは欠かせません。
インプラント体の表面性状や骨造成そしてデジタル化の進歩は目を見張るものの、インプラント周囲炎における治療のポロトコールが確立していないのは事実です。
インプラント周囲炎にならないように、クリーニングを徹底することが何よりですが、インプラント周囲炎になってしまった場合はその治療として、超音波スケーラーによるクリーニング、エアーフローやレーザー照射による洗浄などによる非外科治療、それでも改善されない場合は、外科治療によるGBR法ですが、すでに感染しているインプラント体にこのような外科処置を行っても成功率はかなり低いものと言えます。
今後の課題としてはかなり重要な二次的なインプラント治療と言えます。
「日常臨床で遭遇したインプラントトラブルに対する考察」
村山大吾先生
埼玉インプラント研究会
歯科インプラント治療を行っている割合は平成16年で10.2%で、平成28年で約倍の24.4%との事で、全国の歯科医療機関の24.4%である14,580施設においてインプラント治療が行われているそうです。
それに伴い、歯科インプラント治療を受けて危害を受けた相談件数も増加しているのも現状です。
このようなことにならないように、若きインプラントロジストはもちろんのことベテランインプラントロジストも初心に帰り、正しい診査・診断・治療計画とインプラント術前初期治療をしっかり行う事、インプラント埋入手術及び2回法においては2次手術、補綴処置、メインテナンスと徹底した治療においてトラブルの減少は可能と思われます。
インプラント治療が24.4%も普及しているのには驚きました。
ほんの20年前の欠損補綴はブリッジが主流でありましたが、今や欠損補綴の第一選択はインプラント治療となりつつあります。
かつて日本でブリッジが登場した時は保険外の治療であったそうですが、今では極端に欠損歯数が多くなければほとんどの症例でブリッジは保険適用となっています。
あと数十年後には、大幅な虫歯の減少や歯周病も再生医療により治癒率も向上し、歯牙欠損そのものも減少し、インプラント治療も保険適用となるかもしれません。
そうなれば健全歯牙を犠牲にするようなブリッジは過去の遺物となり、インプラントが主流となるのは間違いないことと思われます。
現在、インプラント治療はほぼ確立されてきましたが、まだ進化を続けると思われます。
我々インプラントロジストは、この進化し続けるインプラント技術と新しい材料の情報を日々身に着けていく必要があります。
今後も積極的に勉強会や学会に出席し技術向上に努めたいと思います。